「実は日本人が大好きなロシア人 在日ロシア人だからわかる日本人の素晴らしさ」田中建之

ロシア関連で読み漁ってる本の続き。

ロシア・ショック

ロシア・ショック

 

経済系の本ではおつきあいについては「なんだかんだ言ってもやっぱり不安」というような論調が多い中で、ロシア寄りの本がこれ。

 

色々なビジネス書を書いている大前さん。

本書では「日本の最良のパートナーとなり得るロシア」と、普段あまり耳にしない意見を読むことができる。

 

ロシアといえば、なんかこれまでの歴史が怖いとか、いろんな国とトラブルを抱えているとか、返せ北方領土とか、そんな色々なことがあるし、個々人としてもロシア人と知り合う機会は、例えば中国人とかと比べると格段に少ないと思う。

ということで、お隣さんという意識もあまりないけど、そういう先入観を取り除いて考えてみてはどうか、ということを提示している。

 

ロシアについて認識しておくべきこととしては、まずは天然ガス・石油のある資源国だということ。

そして教育水準がBRICs諸国の中でもずば抜けて高いこと。

あとはプーチン氏が日本文化(柔道)が好きなこと。

そして一般人も日本人が好きらしいということ。

不思議なことに、一般のロシア人も無条件に日本のことが大好きだ。日本の製品があれば最優先で買い、「オタク文化」をはじめサブカルチャーまで愛してくれている。これほど無条件に日本のことを好きなのは、世界の中でロシアとインド、そしてトルコくらいなものだ。(p16)

 

プーチンが柔道をやっていて日本好きというのは有名で、こんな本もある。

プーチンと柔道の心

プーチンと柔道の心

 

 この本から来日したプーチン講道館でのスピーチを引用する。

講道館に来ると、まるでわが家に帰ってきたような安らぎを覚えるのは、きっと私だけではないでしょう。世界中の柔道家にとって、講道館は第二の故郷だからです。日本の柔道が世界の柔道へと発展していくのはたいへん素晴らしいことですが、われわれにはもっと注目すべきことがあります。それは、日本人の心や考え方、そして文化が柔道を通じて世界に広まっていくことです」(p11) 

 そしてこれも有名な話だが、引用しておく。

 プーチン氏は、講道館館長から贈られた六段の紅白帯をその場で締めることを丁重に辞したうえ、こう言葉を続けました。

「私は柔道家ですから、六段の帯がもつ重みをよく知っています。ロシアに帰って研鑽を積み、一日も早くこの帯が締められるよう励みたいと思います」(p11)

 そして食事の席でのこういう発言もある。

日本とロシアのあいだには、前々から難しい問題があります。でも、これ以外に問題はありません。これ以外の問題をつくろうという気持ちもまったくありません。だから何も心配しないで下さい。安心してください。両国が知恵をしぼってこの問題を解決できたら、日ロの間には問題が何も存在しなくなります。さあ、乾杯しましょう」 (p24)

 この本はもちろんプーチン寄りの本だが、学校占領事件のことも記載してある。

学校占領事件とは、この件である。

ベスラン学校占拠事件(ベスランがっこうせんきょじけん)は、2004年9月1日から9月3日にかけてロシア北オセチア共和国ベスラン市のベスラン第一中等学校で、チェチェン共和国独立派を中心とする多国籍の武装集団(約30名)によって起こされた占拠事件。

9月1日に実行された占拠により、7歳から18歳の少年少女とその保護者、1181人が人質となった。3日間の膠着状態ののち、9月3日に犯人グループと治安部隊との間で銃撃戦が行われ、治安部隊が建物を制圧し事件は終了したものの、386人以上が死亡[1](うち186人が子供[2])、負傷者700人以上という犠牲を出す大惨事となった。首謀者はチェチェン人シャミル・バサエフ

 

(中略)

突入時の状況

人質は、約1000人がバスケットコート1面分くらいの面積しかない体育館に「すし詰め」状態だった。このため、館内は蒸し暑く、救出時には上半身裸の人質の姿が多く見られた。また、救出されるまでの50時間以上もの間、食事もなく水も与えられなかったため、衣服に尿を染み込ませ飲ませる親もいた。

また、自分の子供を人質に取られた親が、銃器を持ち現場に入り込んでおり、治安部隊の突入時には、逃げ出す人質と相まって、現場は大混乱に陥った。また、この混乱に乗じて犯人グループの何人かが、人ごみに紛れて逃げようとしたが、群集に取り囲まれて虐殺された(虐殺は極めて凄惨で、親達は犯人の四肢、あるいは首を切断。肉を引きちぎっていたという情報もある)。犯人グループの1人が拘束された。

ベスラン学校占拠事件 - Wikipedia

 テロリストからの要求を呑まずに結局武装部隊の突入となり、多数の死者が出て、国内では相当批判された。

 

 さて、元の本に戻る。

本書では、

日本人は相変わらず北方領土問題に引っかかって、冷戦のパラダイムのままのロシアのイメージを引きずっている。レーガンの唱えた「強いアメリカ」に違和感がなくて、プーチンの唱える「強いロシア」に反発する、という大多数の日本人のメンタリティは、やはり戦後六〇年続いた「対米一辺倒」と「米ソ冷戦」の産物である。(p17)

として、日本人の凝り固まった先入観に警告を与える。

いかに日ロ関係が可能性に満ちていても、こんな状態で足踏みをしていては”時すでに遅し”ということになりかねない。日本人は古いパラダイムのままで「ロシアはけしからん」というのではなく、ロシアの真実の姿を知り、メンタル・ブロック(心の壁)を解いて一刻も早く新しいロシア・パラダイムへの転換を図らなければならないのである。(p19)

 

タイトルとなっている「ロシア・ショック」とは何か。

ロシアを奇跡的に復活させたプーチンは、四年間は表向きはメドページェフに大統領の座を譲るものの、四年後には大統領に返り咲き、その後二期八年間務めると私は読んでいる。つまり、実質的には今後十二年間、二〇二〇年まで彼はロシアの権力者として「強いロシア」の復権をめざして君臨するだろう。その間に、ロシアはさらに変貌し、政治的にも経済的にも世界に大きな影響を与える存在になっていく。それは世界にとって、まさに「ロシア・ショック」と呼ぶに相応しい大きな衝撃となるはずだ。(p18)

この予想は的中どころか、大統領の任期が6年になったので、もっと長いこと大統領に留まることになりそうだ。

大統領職再登板(2012年~現在)

2012年5月7日クレムリンで行われた就任式典を経て正式に大統領に就任した[47]。2008年の憲法改正により、今任期から連邦大統領職の任期が6年となったため、任期満了は2018年となる。また、仮に次期大統領選挙に出馬・再選された場合には、2024年まで在任することになる[47]

ウラジーミル・プーチン - Wikipedia

 

政治の偉い人がころころかわる日本では考えられないことだ。

すぐかわるのが悪いかといえば、必ずしもそうとは言えなくて、国民がそれなりに選ぶ自由があって、問題があればすぐに交代させられるというのは、実質的にトップを国民が選べない国とか、よっぽどじゃなければ何年も交代させられない国とかよりは柔軟でよいと思う。

勿論ベストな状態だとは言えないが。

 

そしてプーチン人気について、ロシア国民が彼の姿に「強いロシア」のイメージを重ねていることも理由のひとつだとあげている。

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確かに、こういう姿を写真に撮らせるような政治家には、票が集まってもおかしくないと思う。

政治家はイメージが大切だ。

 

プーチンが何をどう変えたのか。

色々あるが、おおーと思ったのは累進課税を廃止してフラットタックスを導入したというところ。

これでマフィアに打撃を与えたという。

どうやって、の部分は本を読むべし。なるほど、と思う。

 

また、ロシア人のライフスタイルも変化してきているらしい。

若者はウォッカよりビールを飲み、女性も中年になっても、いわゆるあのものすごく豊満な体型になったりする人が減ったらしい。

 ロシア人「伝統的な純血ロシア美女の画像をご覧下さい」 【画像23枚】 : 世界の憂鬱

別荘も立派になって、お庭でバーベキューをしているとか。

いいなぁ。

 

ロシア人はプーチンを尊敬する一方、恐れてもいるという。

思想の自由を認めずに粛清というのではなく「ロシアという国家を良くしたい」というプーチンの思いに逆らって、お金や利権をかすめ取ったり、私利私欲のためにプーチンの長期計画に協力しないような人間を粛清するということだろう。 最大多数の最大幸福を見て、情け容赦なく叩かなければならない奴がいたら、叩いてしまう。それはツァーリ(皇帝)時代からのロシアの伝統なのである。」

ロシアはやっぱり恐ロシアなのか。

 

ちょっと意外だったのは、

広大な国土に比して人口は少なく、日本よりやや多い一億四一九〇万人(二〇〇八年六月時点)程度。

という点。

確かに人が密集していなそうな地域は多いけど、日本と比べられるほどとは。

モスクワの人口密度は高いようで「中心部は渋滞が激しく、「世界最大の駐車場」と揶揄されるほど」だとか。

日本の首都高速駐車場よりひどそう。

 

BRICsの中でロシアが特異なのは、その進学率の高さ。

「ロシアの第三次教育への進学率は実に七二%。それに対してブラジルは二五%、中国二二%、インドは一一%にすぎない」という。

IT分野における人材の絶対数でも、インドの八分の一の人口しかいないロシアに、インドと遜色ない毎年約二〇万人の大卒のIT人材が輩出している。

そして、この進学率の高さや国民全体の知的水準の高さから、ロシア全体が同じような生活レベルの社会になり得ると著者は言う。

他のBRICs諸国には”見捨てられた層”がいるが、ロシアは中間所得層を形成しやすい環境がある。

そして宇宙技術、軍事技術はアメリカと競ってただけに優秀である。

なるほど。

 

そして、ロシア全体の購買力についても期待があるという。

なにせ、お金もない、買うものもない(そもそも売ってない)というような時代が長かったので、ここぞとばかりに消費に走っているという。

まだ家電や車が一般家庭に十分に普及していないというから、これはチャンスではないか。

そういえば欧米ではお湯で洗濯するというのはご存知だろうか。

聞いてビックリ!! ロシアの家事事情~洗濯編~ | マイカジスタイル

現代日本では除菌といえば洗剤だが、熱湯で洗い、アイロンをかける(いわゆる熱消毒)というのが一般的。

熱湯で洗えば洗濯槽のカビなんかも発生しにくいだろうに。

日本でも普及しないかな。

 

この本にはあと5枚以上付箋をつけていたが、抜書きしてたら終わらないので、ここでとめておく。

終章の北方領土についての意見は、普段あまり目にしないものだ。

私はこれも悪くないと思う。

 

 やっとタイトルの本にたどり着く。

 

実は日本人が大好きなロシア人 (宝島社新書)

実は日本人が大好きなロシア人 (宝島社新書)

 

 本書はロシアでの日本人気についての記述で始まる。

続いて日本でのロシアの扱いについて触れる。

韓国や中国に関する書籍はたくさんあるが、ロシア関係の本は学術書やクラシック文学(ドストエフスキートルストイ)、プーチン政権に関する政治的な本ばかりであると。

 

宗谷海峡を向かい合う、北海道の稚内サハリンとの距離はわずか四十二キロメートルであり、日本本土の福岡市に一番近い外国といわれている韓国の釜山市までの距離が、福岡市から鹿児島市の距離に匹敵する二百キロメートルというのに比べて遥かに近い。

 ところが、日本人の意識の中には、隣国という場合には韓国か中国であり、ロシアが隣国だと意識している日本人が少ないのが現状だ。(P4)

 確かに、隣国という意識は薄い。

 

ニーハオ、シェシェとか、アンニョンハセヨ、カムサハムニダは聞いたことがあっても、ズドラーストヴィチェ、スパシーバあまり聞いたことがないかもしれない。

上のはどれも、こんにちはと、ありがとうである。

 

どうでもいいけど「ロシア 結婚」で検索すると、ロシア人美女との国際結婚の紹介サイトがいっぱい引っかかる。

あまり裕福でないアジアの国から嫁さんを買ってくるというサイトが多いが、ロシアとその周辺国も多い。

金の力で引っ張ってきても日本の文化に溶け込めるのか心配だ。

 

さて、この本は在日ロシア人からの聞き取りとかインタビューとかそんなんで構成されている。

 

ビジネスをしたり、ネットで活動している人も多いので、関連リンクを。

モズジェチコフ氏の在日ロシア人コミュニティー”ロシアンクラブTOKYO”は検索しようとしてもロシアンパブの検索結果ばかり出てくるのであきらめた。

 

NHKみんなのうたで知られたエカテリーナさんのページにはこうある。

日本に来たばかりの時、コンサートに来てくれたお客さんは、戦争が終わった後でロシアに連れて行かれて、シベリアでラーゲリに入れられていた人が多かった。よく来てくれた。でもそういった人は、ロシアを恨むんじゃなくてロシアが好きな人が多かった。

 なぜ、ロシアが好きかというと、シベリアにいた時、ロシアのお婆さんが食べ物をくれたり、暖かいお茶を入れてくれたりとても親切に優しくしてくれたって話してくれた。(p36) 

 この手の話は、いいものだ。

 

ロシアNOWのブリレーフスキー氏のところにはこう。

ロシア人の多くは、日本人を尊敬している。なぜならばと言うとね、日本には資源がないでしょう。そんなに資源がなくても生活水準が世界でもトップレベルで立派にやっていける。羨ましい。尊敬しなくてはいけないね。(P82)

 

ニコニコ動画のタグにも海外の反応シリーズというのがあるが、こういう違う視点からみた日本のいいところというものを読むのはいいものだ。

もちろん、あえて苦言を呈するが、という文章もあるがそういうのも含めて愛情を感じる。

この本を作った人は、よっぽど日本とロシアの関係を良くしたいのだろう。

 

こう話す人もいる。

日本とロシアの関係が良くなったら、それはアメリカにとっていいことではない。だからアメリカは日本政府に対して、北方領土の問題をとってもプッシュしている。日本の保守派の政治家たちもバカではないから、色々なことを考えているよ。

 こういう政治家たちの中には、日本が中国と本当に大きな危機が起きた場合には、アメリカが実際に日本を守ってくれるという保障が、百パーセントではないと思っている人も少なくないね。彼らは、もっとロシアと良い関係にあったらいいんじゃないかと考えている人もいるよ。

 日露関係が本当によくなるためには、アメリカのプロパガンダにのって、ロシアに対して、何かにつけて感情的に北方領土を返せ返せと騒がないほうがいい。(p88)

 

なんか、あまり面倒なことには巻き込まれたくないですね。はい。

 

 

こういう本を読んでいて、日本の良い点、悪い点にあげられるのは、ルール通り、というヤツである。

規則通り、マニュアル通りというのは個性も発展性も融通もなくイマイチであるという話がいっぱいある一方、それが安心・安全の信頼性へと繋がっているというものだ。

 

がっちがちのルールの中で身内受けだけの為に工夫したり洗練したりしていく日本人の国民性は好きである。

少数の、既存のルールをぶち壊してまったく新しい発想をする人がいて、大多数の人がルールの中で安心安全に暮らそうとする日本。

悪くないと思う。

信頼コストというのは削減するのにすごく時間がかかるし、難しい。

ルールの過剰さは問題ではあるが、その他国との差異が日本の付加価値になっていると思う。

「真面目系クズ」の検索結果とか見ると、残念なことになってるなとも思うが。

 

 

あ、面白いもの見つけた。卒論らしい

ロシアにおけるオタク文化の発展、変容と今後の展望(PDF注意)

 

ロシアの本はもうちょっとあるけど、とりあえず今回はここまで。

 

 

ロシアのマトリョーシカ (SPACE SHOWER BOOks)

ロシアのマトリョーシカ (SPACE SHOWER BOOks)